約 99,176 件
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/642.html
高校を卒業してからもう三年が過ぎた 二年のときに佐々木と再会して親交を温めたものの結局は別の大学に行き 新しい生活になじむうち、また疎遠になっていた。 あいつは高校時代もずっとあのままで変わった奴だったが 俺はなんだかんだで気に入っていたと思い知らされる事がよくある 地元の成人式で久々に佐々木に再会したあの日もそうだった・・・ 久々に再会した佐々木と話をすると近々結婚するんだそうだ どうやらできちゃった結婚らしい、あの佐々木がね・・・ その夜、同窓会で酔った勢いだったのかなんなのかさだかではないが 佐々木は俺によく絡み、愚痴をこぼし、俺の胸に抱きついてきた そっと抱きしめている間佐々木はずっと俺の名前を呼びながら泣きじゃくってた・・・ 後日、佐々木からハガキが届いた、入籍の報告だった その笑顔にあの頃の輝きは無かった・・・ 俺の色褪せた日常の中で眩しいほど輝き続ける高校生活ニ年間の思い出 そして、その中で他のなによりも輝いていた佐々木の笑顔 もしあの頃、俺達がお互いにもう少し素直になれていたら こんな未来を選ばずにすんだんだろうか・・・ などと答の出ない疑問を思い浮かべながら 俺は今日も色褪せた日々を生きている
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1759.html
「で、キョン。どう責任をとってくれるのかな?」 俺のベッドの上。かけ布団だけ羽織り、裸の背中を向け合い、まだ荒い吐息を誤魔化すように佐々木は言った。言われてしまった。 なんてこった、まさに台詞通りの場面じゃねえか。 『寄りかかるな佐々木』 『くく、手を貸してやろうというんじゃないか親友』 今年は「永遠の八月」を回避すべく、宿題を片付けようと「面倒見のいい」「勉強の出来る」佐々木に声をかけた。 そこまでは問題なかった。あの春以来のぎくしゃくした関係は俺としても気になるところだったしな。 俺はこれでも交遊録、特に「親友」等と呼び合う奴は気にかける人間のつもりだ。 しかしだ。 あの春の事件で改めて「俺はお前を性差なんかで見ない」と強調したのを気に入ったのか まあなんというかだな、夏の薄着のまま、以前以上に、やたらと「近い」態度で寄ってきた佐々木に…………今度は限界を越えてしまった。 中学時代よりも肉体的に成長し、中学時代よりも近くなった関係に、中学時代より露骨になった俺の欲望に そうだ、佐々木が悪いんじゃない。俺を信じてくれたからこそあんな態度だっただろうに。 俺は、俺は…………。 「だんまりかい? まあいいさ」 脱力の余り何一つまとわぬままの俺の背中に、背中を寄せてくる。 「キミが無責任でない事はよく知っている。それに僕が高値こそ付けてないとはいえ貧してはいない事はキミも」 「佐々木」 言葉を遮り俺はベッドを降りる。視線だけこちらに向けて硬直する佐々木に向かい 「すまん」 俺は自室の床に深々と土下座した。 全く無意味な行為でも、致さずにはおれなかった。 緊張で粘つく舌をなんとか動かし、それでも謝罪を続けた。お前を傷つけたのは俺の意思だ。だから俺を罰して欲しい、と。 俺は俺を信じてくれた親友にとんでもない事をしでかしてしまったのだから。 「ところでキョン、興味深いとは思わないかい?」 ゼリーのような沈黙を破り、場違いな返事が返ってくる。 俺が返事を返せないでいるのも気にせず、佐々木はいつもの調子で滔々と語り続けた。 「僕らは親友だ。僕がキミをそう思っているというだけでなく、先日からはキミも僕をそう任じてくれるようになった」 土下座したままの俺には顔は見えない。 「そう、僕らは親友だ」 「けれど、やはりキミはオスという本能から逃れられなかった」 ああやはりダメだ。佐々木は俺に逃げ出したくなるような言葉を投げかけ 「……僕がメスの本能から逃れられなかったようにね」 一拍の間を置いて爆弾を落とした。 「キョン、気に病む事はないよ。キミは健康なオスなのだ。そこに健康なメスが密室で寄り添ったのだから」 「それは聞けんぞ佐々木、俺達は」 「黙りたまえ」 黙るかバカと言おうとした俺に、佐々木は無言でシーツを指差す。 シーツの朱色の染みの前に俺は沈黙するしかなかった。 全裸で。 「くっくっ、そんなに僕がメスの部分を見せたのがショックだったかい? まったく相変わらずだなキミは。 そう、キミは誰かが変化しようとするのを嫌うね。好ましいところでもあるが」 言って掛け布団を羽織ったままぽんぽんとベッドの上を叩き、促す。 躊躇する俺に目線で命令する。来たまえ、と。 「例えば春先、僕が僕であろうとするのを肯定したように。或いは、長門さんが長門さんであるのを否定した時のように。 そしてあの中学三年の雨の日、僕がただの「女の子」に過ぎない事を晒してしまった時のように」 掛け布団一枚の格好のまま、くつくつと喉奥を鳴らして笑っている。 「あの雨の日以来、関係の進展を止めてしまった時のようにだ」 ぺたり、と背中に背中を預けてくる。 「キミは変わったようで変わってないね。 あの雨の日以来キミは「やれやれ」が口癖になり、やや思考が停滞気味になった。 しかし再会したキミは「やれやれ」等と思考を停滞はしなくなった。だから一見変わってしまったように見えるがそうでもない。 例えば、僕が「告白された」などと言った際、今度こそキミは「やれやれ」等と思考を止めず、言葉を捜してくれたね? けれどそれは、キミが僕に変わって欲しくなかったからなんじゃないのかい? まあ僕が更なる追い打ちをかけたからうやむやになってしまったが」 ペラペラとよく回る舌だな、とは思ったが口には出さない。 『キョン、キョン、ああ!!』 先刻の上ずった佐々木の声とは、まるで別人で………身体の一部に血液が集中するのを感じる。 「ぐ。そんな事は無い。俺は変わったぞ」 俺はあの雨の日、難儀に際し「やれやれ」と思考停止することを覚えた。 しかし、やがてSOS団が一致団結するにつれ、「やれやれ」と思考停止する事を止めた。 今の俺には他人行儀に途方に暮れている暇など無いのだと、一朝ことあれば動き回らなきゃダメなのだと学んだからだ。 でなきゃ、トラブルは手に負えない事態にまで発展してしまう。 俺は変わった。変わったはずだ。 「そうかな? あの雨の日とは状況が違うよ?」 しかし佐々木は容赦なく俺に言葉を投げつけてくる。 「あの雨の日、僕は自分が女である事を強調した。 けど僕は「そう見られたい自分とそう見られない自分」を、キミはキミで「僕を女と再認識すること」を「やれやれ」と避けてしまった。 そう、そうやって思考停止をしなければ良かれ悪しかれ僕らの関係は変わっていたのさ」 「くく、キミが僕の外観をそれなりに褒めていてくれた事をすっかり失念していたのは、あの時の僕のミスだったがね」 『お前、その理屈っぽいところ直せばさぞモテるだろうにな』 何故かその日の俺の言葉がフラッシュバックする。 「翻って今はどうだい? キミは緊迫感が起こりうる非日常の中に居る。思考停止してしまえば、今の関係が容易に壊れかねない状況にね」 「どちらも一緒なのだと言いたいのか?」 「さて、どうだろうね」 「僕が思うに、キミは他人の急な変化や、関係の変化を、無意識に押し留めてくれる奴なのさ。 それが当人の望むところであろうとなかろうとだ。けどそれはキミなりの優しさなのだろうと思うよ。 だってその為にキミ自身が『役得』を失うケースでも、キミ自身が傷付くケースでも、キミはそれを恐れないからね」 ヒリヒリと背中が痛む。いや、ホントに痛いのは別のものかもしれない。 「昨年、涼宮さんと二人で世界改変を迎えようとした時だって、そうだったんだろう?」 世界を塗り替え、「二人で新しい世界を迎えようとしたハルヒ」を俺は拒絶し、その上で「今のハルヒ」をキスの形で肯定した。 もしあの世界を受け入れていたら、俺とハルヒはどんな関係になっていたのだろう。 俺はただ、あいつに今あいつを取り巻く環境を知ってほしかったのだ。 今お前が居る世界は捨てたものじゃない、今お前を取り巻いている環境は捨てたものじゃないのだと……。 ああ、そうかもしれんな。俺はいつも「今」は捨てたものじゃないのだと思っているのかもしれん。けどな佐々木よ。 「……そんなご大層なもんじゃねえ。俺はいつでも、あー、そうだ必死なだけだ」 ベッドの上で背中を向ける俺に、佐々木は滑らかな背中をすり寄せる。ミミズ腫れが出来た背中に心地良かった。 「なら尚更だ。本質かトラウマかどっちかなのかい?」 「尚更知るか。本質もトラウマも本人には解らん」 古泉じゃあるまいに勝手に人を分析すんな。 ただでさえ身体的に全裸なのに。 「ならば自ら考えたまえ。僕が思うには」 一旦言葉を切ると、佐々木は躊躇いがちに言う。 「うん。例の、急にブラジル蝶になって遠くに行ってしまったというキミの憧れの女性、それが原因ではないか、な」 「そんなもんとっくに俺の心の倉庫の肥やしだぞ」 きっぱり言ってやると、再び沈黙が落ちた。 本心だぞ。これは。 「ま、何にせよだ。気に病む事は無い」 「!?」 佐々木が俺の背中に抱きつき、布団で二人を包む。お互いに全裸のまま。 先端に特記事項を持つ柔らかいものが俺の背中に当たる。当たって当たって当たりまくる。 「遠因はキミだが、直接的な原因は僕だと言ったろ。だから気に病む事は無い。それに強姦罪は親告罪だ」 親告罪、つまり佐々木が俺を訴えなければ成立しない類なのだ。しかしだ。 「僕もキミへの距離感というものが解らなくなってきてたんだ。共犯だよ」 人の背中と言うか耳元でくつくつ笑うんじゃねえ。 「済まないね。なんなら訴えてくれて構わないよ」 手が後ろに回るのは俺だ。 「ふふ、こうしてキミの背中に爪を立ててしまったようだしね」 ミミズ腫れを舐めるな。なんかぞくぞくする。 「傷にはツバでもつけろというじゃないか」 「ええい屁理屈を」 「大体ね、キミも悪いんだよ。中学時代より肉体的数値は変化しているし、内的にも変化を加えたつもりだ。 これでも結構自信があったのだよ? あの春、喉元や膝丈などなかなか大胆な格好をしていたつもりなのだが覚えていてくれてないかい? それでもキミの視線は変わらなかったのだから、僕は僕なりにショックでもあったのだが」 人の肩に顎を乗せるな。あごを。 「オマケに見せ付けられたのはキミと涼宮さん、SOS団とやらの絆だ。僕が二週間足らずで諦めモードに入った事くらい想像してくれ。 ただでさえ一年のブランク、というか、キミを振り切る為にこそ一年も間をおいていたというのに 何なんだろうね僕は。いちいち矛盾していると思わないかい?」 腹を、いやこら、ああもうあちこち触るな! お前はお前でタガが外れすぎだ! 「ええいそんなん言われたって、言われなきゃ解らん! 俺は鈍重な感性なんだろ!」 「くっくっ、まさにその通りだ。あの事件は鈍感なキミには性急過ぎたよ。けど、それすら解らないくらい近視眼に陥りきっていたのさ」 なんだ、人生はクローズアップで見れば悲劇。 ロングショットで見れば喜劇、だっけか? 「そう、チャップリンの格言だね。特に若い内は誰であれ視野狭窄に陥り易いものさ」 「特にお前みたいに、秀才気取ってる奴なら尚更だな」 「くっくっ、その通りだ。上手い事言うね」 皮肉だぞ皮肉。 「だ、だからな、言ったろ、判じ物は間に合ってるってな」 ちゃんと解り易い様に話せ佐々木。俺は鈍感だから言ってくれなきゃ解らんし、頭の回転が早くもないから考える時間だって欲しいぞ。 「くくく、言葉のパズルはもう沢山だってね。キミの言葉はたまにド直球ストレートだ。好意に値するよ」 こ、行為の間違いじゃないのか佐々木。 「ふくく何の事かな」 ああそうだ。春の事件の終わりがけを思い出す。 判じ物、言葉のパズルは間に合っていると俺は言った。 そしたらあいつは言った。「これは告白じゃない」つまり「これは友達としての言葉」だと。 だから俺は言ってやったんだ。「あばよ親友!」と。そう「友達は友達でも、俺達は特別な友達なんだろ」ってな。 「ふふ、それがどれだけ嬉しかったか」 だから言わなきゃ解らん。 「そしてどれだけ寂しかったか。それこそ、言葉に出来ないような気持ちだったのさ」 「そうさ、キミはいつだって他人のあり様を尊重する。 涼宮さんが世界ごと変えようとした時も、長門さんが世界と自分とキミの仲間達を変えた時も、僕が僕をさらけ出した時も 僕が僕をさらけ出せなかった時も、いつもキミは『僕たちが僕たちである事』を何より尊重するのだね。 そして、キミ自身を取り巻く環境が『そのままに保たれる』ことを望んでいるように思える」 「かといってキミが器用な奴だとも思っていないよ。だから多分それは無意識、キミの行動規範なのだろう」 俺がそんな指針で物事を捉えてるってのか? そんな事は 「無意識の指針だと言ったろ」 ハルヒといいお前といい無意識を便利な言葉にしすぎだ。 「ふふ、キミの感性は鈍重と言うより、そうしたベクトルを重視するからこその有り様なのかもしれない」 「んな無茶な理屈があるか。それなら今『佐々木』のままでこうしてるお前は、って」 佐々木はなんというか俺のアレをコレしつつ耳を甘噛みしてくる。 「おやおや。今の僕は『キミの知っている佐々木』かい? 違うだろ?」 く、肉食獣が耳元で囁いている気がする。 「それでいて僕は僕。これも僕だよ」 「そんな哲学会話なんだからな、佐々木」 「おやおや僕はただキミの器官に手と指で刺激を与えているだけだよ? どの器官とは言わないが」 言ってるも同然だ! というか言わんでも俺には解るわ! 「僕の存在を感じて頂けているとは幸甚だなあ」 耳元で囁くな! 俺は佐々木、いや他人との一度出来上がった関係を壊すのが嫌なのだろう、と佐々木は指摘する。 昔大好きだった人が「急激に変化して」去っていったという過去が、そうさせさせているのではないのかと。 その態度が「鈍感」と周囲に見え、それに甘え、或いは苛立った佐々木は色々と「少女らしからぬ言葉」を投げてきたのだと。 その関係が中学時代から続いてきたから、あいつの行動にも他意はなかったのだと。 しかし中学時代と違っていたのは、俺もようやく人並みに思春期を迎え始めていたという事。 その俺に、中学時代よりも更に加速した言動と行動、更に佐々木自身の肉体的な成長、久しぶりという機会ゆえに着飾った格好。 せめて俺が「意識的に」変化を否定していたなら拒めただろう、だが所詮は無意識の行動に過ぎない。 だから誰にも「限界」が解らなかったのだ。 それらの複合的要因が、なんというかアレしてコレしたのだ、と………。 これも一種のすれ違いという奴なのだろうか。 「くっくっ、まあ肉体的には最接近しているけれどね」 「上手いこと言ったつもりか!」 「くっくっく」 「まあキミが鈍感な事も否定はしないよ」 さっきと同じ声が、今度は朗らかに響いていく。 「鈍感だの、人間関係がどうたらだの、そういった要素が複合して「キミ」が成り立つ。何事も単純ではないのさ。けどね」 語りながらも俺を両腕でとらえ、子供がぬいぐるみでも抱くかのようにゆっくりと俺の背中に頬を寄せ続けた。 そうだ。こうして佐々木の小ささを感じるたびに、俺はこいつが女である事を意識する。 こいつの言葉はいつだって強くて正しい。だから俺は毎度言い負かされてきたし、だからこそ「弱さ」を感じられなかった。 けれどこいつに触れる度に、その小ささ、脆さ、弱さを再確認させられる。 佐々木が女であると再認識させられるのだ。 思えば中学時代、俺達は殆ど触れ合ってこなかった。 だからこそ、俺はいつだって佐々木を心のイメージで捉えて、その肉体的なイメージで認識できなかったのかもしれない。 だからこそ、触れ合うようになってから、俺のイメージが急速に変わったのかもしれない。 そうとも、佐々木は佐々木であり、そして「女」なのである、と。 「キミがそんなだから、そうだと知ってるから、僕は距離感が解らなくなるのさ。その行く末がこれなのだと理解して欲しいね」 「他人のせいにすんじゃねえ。お前こそなんつうかアレなんじゃないのか」 「くく、明確に言葉にしたまえ。言葉に出来るならするべきだよ」 するりと背中から抜け出し、俺の前にしゃがみこむ。 生まれたままの綺麗な姿。 「いつかも言ったが、意思を他者に伝えるのは人間普遍の能力だよキョン。だから存分に語り合おうじゃないか」 生まれたままの姿のまましゃがみこんだ佐々木が、やんわりと俺の頭を両腕で捉えたところで 「ああ、そうしようぜ」 俺は半ば押し倒すようにして唇を奪った。 そうとも語り合おうぜ。 肉体言語でな。 「ん」 長い長いキス。 というより、長くならざるを得ないのだ。俺達にはそんな知識などロクにない、あるのは互いを求める欲求だけなのだから。 互いに両腕で強く抱き寄せあい、不器用に、精一杯に舌を動かし、ただ一心に互いの口内を味わい続けた。 交換しようとして漏れた唾液が口元を塗らしてゆく。 「伝わったか?」 「ん、肉体言語か。なかなか荒っぽい表現をするじゃないか」 「ならお前ならどんな表現をするんだ?」 いつもの偽悪的な笑みが返ってくる。 「残念だが僕にも言葉には出来ないものがあってね。ここは行為で示すことにするよ」 そう言って佐々木は裸の両腕を広げ、小首を傾げるようにして微笑む。 後はもう言葉にするまでもないことだった。 俺は男で、こいつは女なのだから。 「くく、実に不思議じゃないか」 「何がだ、佐々木」 再び無心に唇をむさぼりあった後、俺は段々と下へと下っていく。 やがて俺の唇が徐々に這って喉元に達した頃、佐々木は堪えるように語り始めた。 「僕らは精神的には親友であり、誰よりも対等な関係のはずだ。なのにこうして望んで組み敷き、敷かれている」 一心不乱に舌を使う俺の頭を強くかき抱きながら、それでも語り続ける。 淫靡な光景のはずなのに、まるでいつもの延長のようだった。 「実に不思議だよ。今、僕の肉体はキミに征服される事を望んでいる」 「佐々木、肉体だけなのか?」 舌を動かす度に小刻みな反応が返り 「いや違うね、精神もだ。ん、これが本能なのかなキョン」 ほの紅い白い肌、緩んでは締めを繰り返す細い両腕、たまに漏らす、不規則な吐息が劣情を煽る。 俺の舌を押し返すような弾力と滑らかな感触がどうしようもなく征服欲を刺激した。 「わ、いや、僕は知識欲には貪欲なんだ、だから、教えておくれ」 「本能なんて解らねえよ、思考は理性なんだろ」 「そうだね、ああ、そうだそうなんだ」 一際高まった声が耳をくすぐる。 「キョン、キョン」 「これは本能、だから、キョン、もう」 解れ濡れた場所を擦り寄せてくる。ああもう十分だ。十分だろ。 蕩けた言葉の前に昂ぶりは限界に達し、俺はまた佐々木自身へともぐりこんでいった。 俺の家族の不在もあり、まさに「猿の様に」と言われるその通りに続いた。 俺が溜め込んでいたもの、佐々木が溜め込んでいたもの、それを行為に変えて吐き出し求め合う。 やがて俺に爪を立てて痛みを堪えていた声がゆっくりゆっくりと変わっていき 内側のうねりがより俺を包み込むよう変わっていったのは覚えている。 その変化に俺はますます興奮を掻き立てられた。 素直な反応を返す肉体も、恥じて自分を保とうとする強がりも、腕の中の華奢な全てが愛おしかった。 いつも強くあろうとするこいつが、こうして寄りかかってくれるのが嬉しくてたまらなかった。 俺に隙を見せてくれるこいつが可愛くてたまらなかった。 悪いか、俺だって男なんだ。 次に自分を取り戻した時、俺はベッドに突っ伏していて 視界に入ったのは、裸身のあちこちに情事の痕を漂わせてこちらを見つめる佐々木の微笑み。やがて笑みはいつもの偽悪的なそれに変わり――― 振り出しに戻すかのように言い直した。 「で、キョン。どう責任をとってくれるのかな?」 「それはその、アレだな」 「ああ、言っておくが彼氏彼女の関係なら却下させていただく」 俺の機先を制するように佐々木は言う。 「それともキミは『一度抱いたのだから俺のものだ』とか前時代的な台詞を言うつもりかい? 感心しないね」 再び全身を布団で覆い、睨むように見つめてくる。 「今回はいわば成り行き、あー、その余禄ともいえる行為だったと言えるだろう。これっきりにしよう」 「佐々木、お前は俺の事をなんだと思ってるんだ」 「僕の鈍感な親友かな」 とぼけるように言ってから、ニヤリと舌なめずりをする。 思春期の乙女、という魔性そのものの笑みで。 「それとも何かい? 僕にキミのセックスフレンドにでもなれというのかい?」 「せ」 佐々木、その台詞はあまりに。 「冗談だよ、まあ」 そっぽを向く。 「まあ以前『キミの望みであるなら、なんでも言う事を聞く』と約束した弱みはある。キミが強く望むなら否定しないよ」 「あんまり刺激的な事は言わんでくれ。俺にも限界があるのは解ったんだろ」 「くく、限界? そうだねキミの限界まで搾り取ったつもりではある」 おいこら親友。 「おや限界ではなかったかな?」 知るかよ……って限界を確かめる為に云々とかはナシだぞ親友。 「ほう、なかなか察しがいいじゃないか」 手を意味ありげに動かすな。 「くく、僕の一部でキミが昂揚していくのを感じるのは実に甘美だった」 「だからそういう事を言うんじゃねえ親友」 「ううん、自分の中で他人が動いているのだよ?」 知るか! どんな対応すればいいんだ。 「いいじゃないか、これでも僕は肉体的に文字通り裂けるような痛みを味わったのだ。代わりにキミの羞恥心くらい頂いたっていいだろ」 「ええい口が減らん。まったく」 言いかけた俺に 「ああ親友、もう「やれやれ」は無しだよ?」 「親友。人の機先を制すな」 「くっくっく」 笑い、佐々木は布団で巻き寿司状態のまま部屋を出て行く。 「シャワーを借りるよ」 「ああ」 「よく考えておくれよ?」 「ああ」 「今度はちゃんと時間をあげよう」 「ああ」 「僕を惚れさせたのだ。面倒な相手に引っかかったと思って後悔してくれると嬉しい」 「ああ、あ?」 「ああ、そうだね言い忘れていた」 佐々木は振り返ると、いつもの片頬を歪める笑みで笑う。 「僕はキミにステディな関係となる事で責任を取って欲しくはない、とは言った。 けどそれはキミが嫌いって訳じゃない。ただ単に『既成事実』とやらでキミを縛り付けるのはしたくない、それだけの事なのさ」 「キミが好きであるという事。それだけは紛れもない事実だよ、キョン」 俺が鈍感だと最大限に理解した一撃に、俺の理性が再び屈したのは言うまでもないだろう。 くつくつと笑う声がいつしか声にならなくなってゆく。それはまるで、俺たちの関係の変化そのものであるようだった。 ■その後の一幕 「くく、そうそう御礼をしなければならないね。返礼的な意味で」 「おい親友よ何故にじりよる。何よりなんで俺をうつぶせに固定する?」 「決まっているじゃないか。僕に女の喜びを教えてくれたお礼だ。キミにも男の喜びを教えてあげようというのさ、もちろん責め的な意味で」 「いや俺は十分、やめろその指の不穏な動きはなんだ、やめろそれは汚い、汚いぞ佐々木」 ゆっくりと俺の下半身に指を伸ばしてくる。 「ふくく道具は今後購入を検討するとして、今日は舌と指でしてあげよう。しかし僕も書物上の知識しかないから暴れないでくれよ?」 その後、佐々木の稚拙ながらもそれでいてねっとりとした責めが俺の下半身のどこを襲ったのかは語りたくない。 ただ「男にも穴はあるのだからね?」と艶やかに微笑んだ顔だけは二度と忘れられそうに無いな。 頼むから癖になってくれるなよ。 ただ、その時に俺も妙に高ぶってしまってだな……なんというかその男女共通器官に対し、俺も男性特有器官による反撃を試みてしまった。 それだけならまあまた一つ大人の階段をステップアップしてしまったというだけで済んだのかもしれんが 女の佐々木が指でやるのと違って、男の俺の器官は、その、放出能力があるのだ。解るだろ? 結果、佐々木が腹を壊してしまい病院で要らん恥をかいた上にお説教されてしまった。 ちゃんと前もって準備はしておけとな。知らんわ。 いや知ったけどさ。 後日、佐々木に何故そんなことに興味を持ったのかと聞いたところ「キミの身体には全部触れておきたいのさ」とにこやかに返してきたが その方向性の間違いだけはどうにか指摘しておきたいところだ。誰か知恵を貸してくれると助かるが 考えてみればこんなこと誰にも相談できそうもないわな。 ああそうだ今度ばかりは封印を解くぞ。 解いてもいいはずだ。 「やれやれ」
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/259.html
ハルヒ「それ、誰?」 キョン「ああ、こいつは俺の……」 佐々木「嫁」 ハルヒ「は?」 佐々木「といっても中学時代の、それも三年のときだけどね」 佐々木、顔を赤らめながらキョンの股間を見て 「そのせいかな、薄情なことに一年間も音沙汰なしだった。これはお互い様だが///」 ハルヒ「・・・」 佐々木、恥ずかしそうに下を向きながら 「でもね、一年ぶりの再開(⇔再会)だったとしても、ほとんど挨拶抜きで(会話を)始められる知り合いというのは、 充分夫婦に値すると思うんだよ。僕にとってはキョン、キミがそうなのさ///」 ハルヒ「・・・」 性的な意味で捉えるとこう続くな
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/728.html
佐々木の部屋に入ってみるときちんと整理整頓されている。因みに佐々木は黄色のパジャマ姿だ。 しかも、胸のボタンからの隙間からブラをしていないのが解る。おい、偶然見えたんだよ! 決して覗いたわけじゃないからな!いったい誰に言っているのだろうね。 それにしても夜九時頃に男子を入れても良いのだろうか?多分俺は無害だと思われているのだな。 しばらく世間話をしていたら佐々木はポテッと寝てしまったのだ。初めて見るあいつの寝顔 春とはいえ、まだ寒い。そのままだと風邪をひいてしまうと思い布団をかけてやろうとした時 ズボンから、なんと白いパンツがはみ出していたのだった!思わず“ゴクリ“と喉を鳴らしてしまった。 そして今度は寝返りして上着が捲り上がり胸が丸見えになっている。ピンク色したさくらんぼが二つ… こ、こ、これは孔明の罠か?俺は何も見ていない。見ていないぞ。そうさ、何も無かったさ 布団を再びかけて佐々木のお袋さんに挨拶をして帰った。 次の日クラスメイトから色々聞かれたが全て無視をした。佐々木の…あの姿を見てしまって言えるわけないだろ? 国木田だけには、一応白と言ってやった。
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1643.html
768 この名無しがすごい! sage 2011/02/04(金) 18 28 00 ID 7huxD9kU 今の時間になって聞くのも何ですが、こないだまでの異常に寒かった時期より、ここ数日の暖かい日の方が結露が多いのは何故でしょう佐々木さん 776 この名無しがすごい! sage 2011/02/05(土) 02 38 12 ID 1Qak130w 768 幾分天候については詳しくないので予測になるけれど、暖かいということは温度差が激しいとも言えるのではないかな? 加えて、気温が高い方が空気中の水蒸気量は増える。飽和水蒸気量という言葉は知っているね? 中学で習っただろう?無論、知らなくてま構わないが……くっくっ、何、今は簡単に調べられるからね。 インターネットとは実に便利なものだよ。これもまた興味深くてね、知識の集積という点で……すまない、脱線してしまったね。 話を戻そう。 気温差が激しいこと、空気中の水蒸気量が増えること、この二点から最近の暖かい気候の方が結露が出来易いのかもしれないね。 あぁ、気温差が激しい点については確証はないんだが、多分そんな所じゃないかな? 僕としてはキョンの部屋の結露量に興味があるね。 いやなに、決して不純な意味ではないよ。 ただ、結露は思いの外家屋にダメージを与えるからね。 加えてキョンのことだ。結露を拭かずに放置している可能性は高いんじゃないかな? 結露が原因で家屋崩落だなんて冗談にもならないだろう? ましてキョンが怪我をしようものn(ry 777 この名無しがすごい! sage 2011/02/05(土) 02 52 50 ID 1Qak130w なんだか申し訳ない気分になってきたので佐々木さんに土下座してくる 778 この名無しがすごい! sage 2011/02/05(土) 07 24 15 ID fSfFTeKL 777 いやいやありがとう代々木さん(仮) 確かにあのころは朝の室温が1゚c、昼過ぎ3゚cとかで、全然気温差が無かったです 最近は一日の気温差が10゚cを超えますからね~
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/9.html
関連ブログ @wikiのwikiモードでは #bf(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するブログ一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_161_ja.html たとえば、#bf(ゲーム)と入力すると以下のように表示されます。 #bf
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/734.html
ある時佐々木が言った。「病院に行って健康診断を受けるから、君もついて来てくれ」 「それは良いが、平日に学校を休んでか?」 「授業より健康が大切だよ。君は最近、授業中居眠りが多いらしいし、一度調べてもらった方が良いよ。くつくつ」 こうして、俺達は市内の中規模病院に行った。 「大規模病院は最近、紹介状が必要になったからねー」 結論を言うと、俺も佐々木も「悪性貧血」という珍しい病気だった。 今後も半年に一回、注射を受けなければならない。 でも早く見つかって良かった。 「ありがとう、佐々木。恩に着るよ」 「パートナーの健康を気遣うのは当然のことだよ」 「ありがとう、親友。ってどうした?佐々木」 顔色が急に悪くなったぞ 「何でも無い。最近は学校で予防接種してくれないので、個人が受ける必要があるんだよ。 今度は、予防接種を受けよう」 しばらく、俺と佐々木は病院通いが続いた。 佐々木さん語る。 「悪性貧血は、ビタミンB12欠乏による貧血の一種だよ。 ビタミンB12は肉や納豆に多く含まれる、コバルトの入ったビタミンで、胃から分泌される内因子という物質と結合し、腸で吸収される。 だから、ビタミンB12が不足する原因には、菜食主義、胃での内因子を分泌される細胞がやられる悪性貧血、胃の手術、腸の病気などがある。 ちなみに、特に肉を多く食べなくてもビタミンB12は不足しないよ。少量で充分だよ。 そして、ビタミンB12が無くなると貧血が起こるんだけど、末期には神経がやられ、精神異常になるという。怖いよね。 ドイツの総統閣下は菜食主義だったから、ビタミンB12が不足していたのかな? 治療は、僕達みたいに、ビタミンB12の注射をする。昔は治療法が無くて悪性だったけどね。 ビタミンB12は数年分体内にストックできるので、半年に一回の注射で充分なのだよ。」 「ちなみに、最も多い貧血は鉄欠乏性貧血で、潜在例も含めれば、日本女性の1/3は鉄不足なのだよ。くつくつ 外国では、パンや米に鉄を入れて成功しているから、日本でもやれば良いと思うよ。 ビタミンB1は既に入っていて、脚気がほとんど無くなっているよね」 その後 「最近、学校を休んで病院に行っているのはどういう了見?」 団長様は機嫌が悪いみたいですな。 「佐々木に勧められて健康診断をな。おかげで、最近体調が良い。 何度も言ったよな?」 「佐々木さんと同じ病気なのは本当なの?」 「そうだが」 益々、ハルヒに(怒)のオーラが。 「つまり、佐々木さんと一緒に直さないといけない病気で、クラとかリンとかウメとかの名前が付いた病気というわけね?」 「日本語でOK」 ハルヒは泣きながら俺をひっぱたいた。 「この女たらしの性病持ち」パシーン (終わり)
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1553.html
337 : この名無しがすごい! :2009/05/31(日) 23 04 29 ID 7qlg/BMR 佐々木「キョン。登山中にバンダナを巻いた人とすれ違ったら、目を合わせずに挨拶するんだよ。彼らはかなりの不良(ワル)だからね」 キョン「お前の不良のカテゴリって…」 350 : この名無しがすごい! :2009/06/01(月) 21 08 39 ID qePCb6N2 337 佐々木「実は僕も昔はかなりの不良(ワル)だったからね…学校にお菓子を持ってきたりしてたし」 キョン「お前可愛いな」 佐々木「えっ!?」 キョン「えっ!?」 351 : この名無しがすごい! :2009/06/01(月) 22 29 13 ID uYa/6K80 佐々木「僕も昔は悪(ワル)だったんだ」 佐々木「道路交通法を無視して2人乗りした事もあるよ」
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1045.html
価値観 キョン、かつて僕はキミに恋愛感情は精神病の一種だと言ったね。 でもあの時の僕の解釈は間違っていたようだ。いや、間違いというよりは変容だろう。正にコペルニクス的転回だよ。くっくっ。 恋愛感情がいかに人類にとって粗悪な遮蔽物だとしても、仮に一度でも、少しでもそれを抱いてしまえば最後。どんな理屈も理論も理性も関係ない。ただ本能のままに、強く深くそれを求めてしまう。正に精神病としか言いようが無いよ。 くっくっ。でもかつての僕は言葉通りの意味で恋愛感情を否定していた。勿論誰に対してもそんなものを求めることもなかった。キミと出会い、共に日々を過ごすまではね。 キョン、キミが変えたんだ。僕の恋愛における価値観をね。
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1691.html
1.おやつの後はゲームでも 中学時代の、ある日曜日のことだ。 「……ふう」 週末に出された宿題に対して消極的サボタージュを実施していた所、塾帰りの四方山話の中で佐々木にあっさりと看破されてしまった。 それでも俺は俺の寄って立つ道理による熱弁を奮ったのだが、まぁ佐々木の言わんとする、世間的、学校的、家庭的価値観に対して俺の孤立状況はいかんともしがたく、結局の所、あいつの部分的支援策を受け入れることによる全面的妥協に至ったというわけだ。 そんな訳で俺ん家で今、二人で宿題を片付けている。 「……ん、さすがに根を詰めすぎてしまったかな」 佐々木の眼が、長い睫毛越しに俺を見た。 俺は手元のノートを指し示し、 「いや、でもお陰でそろそろ終わりそうだ。ありがとな、佐々木」 お礼を言う。 「どういたしまして、だ。……それにしてもキョン、キミはやればできるのにどうして勉強を忌避するんだい? こんなのは単純な努力の単調な積み重ねだよ?」 口元を綻ばせる佐々木の表情は、説教のそれとはほど遠い。 俺は喜んでその話題に飛びついた。 「単純で単調なのはつまらんからだ。むしろ飽きずにやれる方が信じられん」 「努力した軌跡がそのまま結果に繋がるんだ。面白いと思うけどね」 「見解の相違だな」 「だけどね、キョン……」 佐々木が笑みを深めたタイミングで、 ノックもせずに、いきなり部屋の扉が開いた。 「キョンくん、おやつだよ~~」 ノックをしなさい、といつもの如く叱り付けるのだが、やはりいつもの如く、妹の笑みに翳り一つ生むことが出来ない。……まぁ、無駄と分かっていてもやらなきゃいけないことがあるのさ。馬の耳よりはマシだろ? 「やれやれ、じゃあ休憩ってことでいいか?」 目を向けると、 「ああ」 佐々木が笑った。 リビングへ入ると、すでに女の子が1人座っていた。 「おぉ、キミも来てたのか」 慌ててその子が立ち上がる。 「おじゃましてます、お兄さん。あ……」 「おや、初めまして。キョン、誰だい? この愛らしいお嬢さんは」 そうか。初対面になるんだな、この2人。 「ミヨキチ……あー、妹の友達の吉村さんだ。吉村さん、コイツは……」 「こんにちは。佐々木です。どうぞ宜しく」 「……あ、こちらこそ……」 戸惑いながらも差し出された手を握るミヨキチ。 しかし佐々木、握手とはまたずいぶん洋風な挨拶だな。なんかの冗談かと思ったぜ。 そんな俺の思いをよそに、佐々木が目を針のようにして微笑んだ。……針? 「学校では見かけないけど、2年生でいいのかな? それとも1年生? ふふ、大人びて綺麗ね。だからちょっと見当もつかないな。もしかして私立?」 「……えっと……」 手を握ったままこちらを見るミヨキチ。 なんとなく庇護欲的義侠心に駆られて、俺は半歩踏み出した。 「佐々木、吉村さんは……」 「ミヨちゃんはあたしのクラスメイトだよ!」 “ミヨちゃん”に抱きついて、妹がニカッと笑う。 「あ……」 「えー……、そう、そうなんだ。ごめんね、吉村さん。大人びて見えたから見えたから勘違いしてしまったの。でも、いくらなんでも間違えすぎよね。ごめんなさい」 「いいんです。慣れてますから」 妹を両手で抱き返しながら、柔らかく微笑むミヨキチ。 「ミヨちゃん、今日はミニシューだよ! 1人3個だって! 一緒に食べよっ?」 「うん」 2人がミニシューの入った箱をリビングの机に持っていく。 (キョン?) 俺も続こうとしたけれど、佐々木の目に射止められた。 (そんな顔するな。ホントに妹の同級生なんだって) (そうなのかい?) まだ納得できないような、教科書を前にした時は決して見せないような顔つきを佐々木はしている。 (しかし……発育の早い子は早いんだね) (ああ。とても妹と同い年には見えん。5年後にはどうなってしまうのやら) 俺は万感の思いを込めて呟く。例えば身長、例えば肩のライン、その同位置エネルギーやや下の曲線、くびれから太ももに至る柔らかな道のりやその足首と指の細さときたら……。 (キョン、鼻が膨らんでる) 佐々木が眼を眇めて俺を見上げた。 何か言いたいようだが俺は美術的芸術品を拝見する心持ちでいただけだぞ。 だからそんな顔をされても何ら疚しくはならないんだ。本当だぞ。ちょっと怖いがな。 「キョンくんササにゃん食べないのぉ? いらないなら4コめ、いただいちゃうよぉ?」 おっと、油断も隙も……って、こらこら全く、どこに乗ってハシャいどるんだお前は。 「意地汚い真似はやめなさい。机の上から降りなさい!」 「はーい」 お袋も居るんならちゃんと躾けて欲しいぜ。俺がコイツくらいの時よりずっと甘やかしてないか? 「「ふふっ」」 何がおかしいんだか、ミヨキチと佐々木が笑った。 「ん?」 佐々木がそれに気付き、 「……」 ミヨキチは俯く。 ……なんなんだろうね、この空気は。 おやつを食べ終えて。 そしたら妹が俺の後へやってきて、肩に手を付きホッピングしながら唄うように笑った。 「キョンくん、いっしょにゲームやろ?」 ゲームやるって、それはつまり俺の部屋に来るということか? 俺が勉強中だっていまいち解ってないみたいだな。 俺は再び説教しようと口を開いたが、 「あ、わたしも……ゴイッショシタイデス」 ミヨキチにまで言われては仕方がない。 「おお、まぁ少しくらいなら……」 「キョン」 「……と思ったが、やっぱり受験生なんでな。まぁまた今度だ」 「えーっ!」 「……ソウデスカ」 「受験終わったらたっぷり遊んでやるから。だからそんな顔するな。ほら、ミヨキチも」 なでり、なでり。 「……えへへ、キョンくん手ぇおおきいね」 「……アタタカイデス」 二人がソワソワと喜んでくれるもんだから、俺の眦が下がっても不思議はないだろう? 「キョン」 なのに佐々木ときたら、検事の答弁に異議を申し立てる弁護士のような目付きをした。 「っと。……ああ、分かってるよ佐々木」 塾の課題や予習もある、時間はないって言うんだろ? 解ってるから睨むなよ。怖いから。 「じゃあ悪いなお前ら。お兄ちゃん達これから勉強だから。静かに遊ぶんだぞ」 「はーい!」 「はい、お兄さん」 リビングを後にした俺達は、階段を上っていた。 「若い娘に大人気だね、キョン。羨ましい限りだよ」 「変な言い方すんなよ。親戚にガキが多いから慣れてるだけさ。お前だって笑いながら一緒に遊んでやればすぐに仲良くなれるぞ。簡単なもんさ」 「……そうだね。検討しておく」 ~ その頃リビングでは ~ 「心配ないよミヨちゃん。ササにゃんはいつもあんな感じだし、恋人なんてことぜんぜんないんだから」 「そっかな……」 「応援するからさ。がんばろ? ササにゃんのマの手からキョンくんを救い出して、いっしょに遊ぶんだ!」 「オオッ……」 「声がちいさい!」 「……おお……!」 2.遊びタイムはごいっしょに(1/13) また別の日。 「キョンくん今日も遊べない~?」 「……だから扉を開ける前にノックをしなさい。マナーを身に付けないと大人になってから困るぞ」 「はぁい」 そして、コン、コン、とドアを叩く。 「……これでいい?」 「開けたドアにノックしても意味がないんだがな」 やれやれと溜息ひとつ。 「まぁいい。それで何だ、遊ぶだと?」 「うん、ミヨちゃんもいっしょだよ?」 「……あの、お邪魔してます。お兄さん」 髪を一つに結い上げたミヨキチがそこにいた。 赤いスウェットのパーカーに、デニムのスカート。胸元にはレースの刺繍が覗いている。 そしてさらに、ミヨキチはポニーテールであった。 「……なるほど。今日は塾もないし、たまにはいいか。よし遊ぶぞ!」 「わぁい!」 「あは、うれしいです」 歓声を上げる二人の小学生。 こんなに喜んでくれると俺まで嬉しくなってくるじゃないか。 「よし、じゃあ『ムジュラの仮面』の続きをやるからお前たちは攻略本を解読してくれ。 俺が詰まったら質問するから速やかに答えるんだぞ」 「わかりました、お兄さん」 笑顔で頷くミヨキチ。 なのに妹ときたら仏頂面になりやがった。 「えーー!!キョンくんまだそのゲームやってたのー?」 ※(『涼宮ハルヒの憂鬱』初版が2003年発行なので、中三時、2002年を想定してます) 「うむ独りだと中々やる気が出なくてな。こういう機会に少しでも進めておきたいと――」 俺の懇切丁寧な説明を、妹が遮った。 「見てるだけなんてやだー! スマブラやろスマブラっ!」 「だがこの描写の芸術的美しさを鑑賞する事で感受性がだな」 「やだ! スマブラっ!」 「……く、仕方ない。次は手伝えよ?」 「うんっ!」 「返事はいいんだよな全く」 「クスクス」 「――なるほど。それで宿題を忘れたという訳かい?」 笑顔のまま嘆息するという器用な真似をして、佐々木は俺を見た。 「まぁ、なんだ。途中まではやったんだぞ」 「で、足りない分は写させてほしい。……そう言うんだね?」 円弧を描く眼差しのまま、俺を覗き込んでくる。 「……うむ。まぁ概ねその通りだ」 なんとか頷く俺。 「構わないよ」 あっさりと応えて席へ向き直り、 「ただしココとココの証明文は表現を変えてくれよ」 佐々木はノートを取り出して、俺の机に広げた。 「わかってるって! サンキュー佐々木っ!」 早速自分のノートを取り出し、俺は模写に取り掛かった。 「それでだ、キョン」 「お、なんだ?」 残された時間は少ない。 眼と手はノートへ走らせたまま、口と耳だけで会話に応じる。 「その、吉村さんは、そんなに遅くまで君の家にいたのかい? 宿題に手がつかなくなるほど?」 変なこと訊くんだな? 「いいや、すぐ帰ったぞ。実はそん時『ムジュラの仮面』をやれなかったのが引っ掛かってな。晩飯の後ちょっとやり始めて――」 「ああ、そう」 「――気付いたら11時でな。それほど夢中になったのはやはり――」 「ノートを写さなくていいのかい? 放課の時間は有限だよ」 心持ち、声の温度が低下したようだ。やれやれ佐々木、お前もか。あの面白さをどうして理解できないのだ? 「……お前も妹と一緒で冷たいな。俺の味方はミヨキチだけだ」 「そうか。僕がキミの敵になっていたとは知らなかった。幸い数学は4時間目だし塩を送るほどの窮状でもなさそうだね。ノートは返してもらうとしよう」 「待って佐々木大明神!」 遠ざかるノートを押さえ込む。 「僕を横浜所属のフォークボールピッチャーみたいに呼ばないでくれ」 佐々木が眉根を寄せる。 「なに言ってんだ。俺にとってはそんな面識もない大魔神より目の前の美しい女神さまの方がずっとありがたい存在だぞ。もう何度でも拝伏したいくらいだ。だからノート見せて」 「……全く、キミというやつは。ほら」 嘆願の成果が俺の目の前に戻ってきた。 「ありがとう、ありがとう」 さてさて、また何の拍子で怒るか解らん。早めに終わらせなければな。 俺の目も手も複写を終わらせる事を焦眉と見定め加速する。 「……キミが、そんなにゲーム好きとは知らなかったな」 ポツリと零れた言葉が聞こえた。 「いや中毒ってほどじゃないぞ。でもほら、たまにやると止まらなくなるんだ。それが面白いゲームなら尚更な」 その素晴らしさへの共感が得られないのが、かなりもどかしい。 「なるほどね」 「ちなみに面白いといってもやはり“至高の名作”ともいえる『時のオカリナ』には及ばないがな。なんといっても自由を感じる広がりというか――」 「キョン、手が止まってる」 「おっと。じゃあ詳しい話はまた後でな」 「……やれやれ、だよ」 ~帰り道、小学校から~ 「キョンくんミヨちゃんには優しいよね」 「そっ……かな」 「だからさ、きっとおねだりすればイヤっていわないと思うんだ」 「な、なにをおねだりするの?」 「それはほら、一日デートとかさ」 「えぇえええっ?」 ~帰り道、中学校から~ 「……というわけでゲーデルの不完全性定理は数多く誤用されているというわけさ」 「いやはや。お前そんな難しい本まで読んでるのか」 「内容の難しさと、それを理解し活用できた時の喜びは得てして比例するものだからね。つい手を出してしまう。だけどキミは、どうやら違う見解のようだね」 「まぁな。必要なものは手の届く範囲、まぁ少しくらいは手を伸ばして届く範囲にあるくらいでいい。脂汗流してまで高い所にある物に手は伸ばさんよ」 「だけどソレは、踏み台を活用するだけで届く物かもしれないし、一年後には背が伸びて、容易に取れる物かもしれないよ?」 「なるほど。ゼルダでも届かない場所に見えるハートの欠片が、フックを手に入れた後では難なく辿り着けるってのがよくあるからな。まあフックを手に入れた時に、その場所を思い出せるかどうかが鍵になるが」 「キミは本当に、そのゲームが好きなんだねぇ」 そう嘆息する佐々木に、だけど非難の色は感じられない。今度は自分が聞き役と思っているのかもな。 じゃあと意気込みかけて、ふと思いつく。 「佐々木、お前ゲームってやった事あるのか?」 「TVゲームに限定するなら、うん、ないね」 「なるほど、それで名作たるゼルダを知らんのか。しかし今どき珍しいやつだな」 「そうかい?」 俺は心底驚いたというのに、佐々木は平然としたものだ。 「まぁ環境の違いというやつだろうさ。『TVゲーム』なんて、普通は男子が熱中するものだろう?」 いやでも、うちの妹は結構はまってるぞ。 「僕にも男兄弟がいたならそうなっていたかもね。だからさっきも言った通り、『環境の違い』という訳さ」 なるほどな。 「で、興味はあるのか?」 「キミがそれほど熱中するものに、無関心でいるのは難しいね」 「そうだろーそうだろう」 「嬉しそうだね。別に僕を無理に誘わなくても、一緒にゲームをやる友達くらい他にいるだろう?」 「ゼルダは一人用のゲームだからな。対戦格闘とかと違って不評なんだ」 「“タイセン格闘”?」 「ああ。今を去ること1991年に出回ったストⅡに始まるゲームの流れでな……」 ニコニコ笑って、佐々木が俺の話しを聞いている。 そうして、週末に勉強がてら『お勧めゲームをプレイ』するという約束をして、俺たちは二人乗りで塾へと向かった。 でも何でこんなに必死だったんだろうね? 我ながらよう解らん心境だ。 ~一方その頃~ 「……あーやって火曜と木曜は『二人乗り』で塾へいくんだよ。学校が休みの土曜日はぁ、違うみたいだけど」 「そ、そうなんだ……」 「でも時間の問題かも」 「え、ど、どうゆうこと?」 「仲良くなったら土曜日でも待ち合わせ。それどころか『塾へ』なんて理由も必要なくなって――」 「な、なくなっちゃうの? なくなっちゃったらどうなっちゃうの?」 「デートするんだよミヨちゃん! デートして、キスとかして遊ぶんだよ!」 「で、デート? き、き、キス? あ、あああ、遊ぶ?」 「そうなったらキョンくんの空いた時間全部、ササにゃんにとられちゃう! ミヨちゃんそれでもいいの?」 「よくない!」 「なら作戦決行だよ、ミヨちゃん……!」 「わ、わかった……」 んでもって土曜日。 学校が休みのために塾も午前から始まり、そして午後には終わっていた。 つまり時間が出来たわけで、そして俺は約束を覚えていた。佐々木はどうかな? 「さて、行こうか」 隣に立つ佐々木が俺に笑顔を向けてくる。俺は小さく「ああ」なんて答えてから、どうして土曜日は連れ立って帰らないのかを思い出していた。つまるところ塾の終わる時間は同じなのだから火曜や木曜みたいに自転車を押しながら、お喋りをして帰っても構わないはずなのだ。なのに何故それをしないのか? 答えが知りたければ、周囲を見渡してみればいい。 佐々木の肩を叩き「じゃね!」なんて去っていった女子は俺にも見覚えがある、すなわち同じ学校の女生徒だった。 その声、態度、表情、佐々木の返事を総合して鑑みるに、おそらく友達なのだろう。そして俺は振り向かなかったけど、彼女から送られる視線を頬だったり首筋だったりに感じていた。俺になんか笑みを向けなかったか? 何かを含めて寄越すような目つきで。 そして恐ろしい事に、この塾で同じ学校の生徒は他にもいる。 そして尚さらに恐ろしい事に、あちこちそちこちからの視線を感じるのだ。 気のせいか? 気のせいだと良いのだが。 「どうしたんだい? キョン」 並んで歩き出してから、佐々木が俺を見上げた。 「別にどうもしないさ」 とりあえず強がってみる。 平日の夕闇の中なら『ただ帰る方向が同じだけ』と装えるが、この時間のこれはまさに『今から一緒に遊びます』といった体で、そしてそんな2人を俺たち自身は『友達』と思っていても周りの目や言葉が明らかに違う何かを指すのなら俺は何か反論すべきなのか? ただモヤモヤとそんな思考が渦巻く俺に、 「……キミはキミだし、僕は僕だ。そうだろう?」 佐々木が囁いた。 「自分たちの事は自分たちが一番よく解ってるのだから、周りが誤解する可能性を気に病む必要はないんじゃないかな。疑心が暗鬼を生むだけだよ」 俺の煩悶は、どうやら顔に出ていたようだ。頬を撫でて佐々木の言を考える。 「そうだな」 佐々木の言う事は正しい。周りがどう思おうと、俺たちは俺たちじゃないか。 だけどまだ沸騰しきらないヤカンから漏れるような、吐息が一つ空に零れた。 「受験が近い。誰もが神経過敏になる時期さ。だからこそ、今日の気分転換じゃないか」 肩の辺りをポンと叩かれる。 「キミが教えてくれるゲーム、名作だって言ってただろう? ジャンル種別を問わず、名作という存在は心を打ち震わせてくれるものだ」 いつか見た夏の星空みたいな眼差しで、 「僕はすごく楽しみにしてるよ、キョン」 佐々木は笑った。 「きたよきたよ帰ってきたよ! ミヨちゃん準備はいい?」 「ほ、ほんとにやるの?」 「作戦はかんぺき! 迷うことないよ、ミヨちゃん!」 「う、う~……ん」 「ただいまぁ」 「おじゃまします」 「おかえりキョンくん!」 「お、おかえりなさいお兄さん、その、お、おじゃましてます」 「あれ、ミヨキチ来てたのか」 おお、しかもポニーテールじゃないか。人形みたいに白い顔立ちのミヨキチにとても良く似合うなぁ。 「は、はい。お兄さんお久しぶりです」 なんて眺めていたら、みるみるミヨキチの顔が赤らんでいく。 恐縮したように頭を下げるミヨキチ。テールがぴょこんと垂れ下がり、起き上がった。 「お久しぶりね吉村さん。――と、私もキョンに倣ってミヨキチちゃんと呼んでいいかしら?」 ニッコリ微笑んだ佐々木が、剣道家のような静けさで進み出る。 「あ、え」 小さく単語をもらすミヨキチ。 そんなの勢いで言っちまえばいいのに。変に礼儀正しいのも場合によりけりだぞ佐々木。ミヨキチが戸惑ってるじゃないか。 まぁいい。フォローしとこう。 「構わないだろ。なぁミヨキチ」 「あ、はい。どうぞお好きなように……」 そう答えるミヨキチの目は、俺を見たり佐々木を見たり俯いたりと忙しない。何だ? 「良かった。じゃあこれからもよろしくね、ミヨキチちゃん」 「は、はい。よろしくお願いします」 佐々木が差し出した手を握り、二人が握手をする。 「で」 俺はジロリと妹を見て、頭を掴む。 「こんな所でお出迎えなんて、用でもあるのか?」 「んふふ~」 ふにゃふにゃと笑った後ビシっと俺を指差し、 「キョンくん勝負!」 と叫んだ。 「は?」 なに言ってんだバカ顔洗って眼ぇ覚ませというニュアンスを込めた単音節の返事を投げ返す。が、妹は全く動じない。 「キョンくんが負けたら明日は一緒に遊ぶからね! というか勝った人と2人きりで!」 妹よ、お前が何を言ってるのかお兄ちゃん解らないよ。 「でキョンくんが勝ったらぁ、あたし、キョンくんのこと『お兄ちゃん』って呼んでー、毎朝やさしく起こしてあげる」 「それは等価の条件になっているのかい?」 くつくつと笑いながら、佐々木が俺を見る。 む、確かに寸毫心が動いたが甘く見るなよ佐々木。こんな安い挑発に、俺が乗ると思うのか? 「お、お兄さん。私からもお願いします」 ミヨキチが頭を下げてポニーテールがピョコンと垂れた。そして垂れ下がった髪に隠れていた項がキラリと白い輝きを放ち、俺の目に鮮烈な感動を焼き付ける。瞬きしてる間に姿勢を正したミヨキチの項は隠れてしまったけれど、俺が受けた衝撃は余韻を残すに充分なわけで―― 「キョン」 脇腹に佐々木が指を刺してきた。驚きと痛みが脳天へと駆け上る。 何をすると振り向いた俺の視線は、2ミリに細まった佐々木の眼光に打ち返されて戻ってきた。 若干後退って動悸息切れを抑え込み、今一度左右首振りで状況を確認。 「……悪いな、二人とも。今日は、いや今日も佐々木と約束してるんだ。うん。だからその勝負を受けることは出来ないのさ」 非常に心苦しいが、佐々木とは事前の約束であり、妹やミヨキチとはそれがない。だから論理的に考えて妥当な結論を、謝罪会見を開く社長のような面持ちで二人に告げる。 「そうなんだ」 妹は満面の笑みでそれを受け止める。何故だ? 「じゃあ今日もお勉強なんだね」 嘘をつくべきか、刹那思考する。 その俺の顔を妹はジッと覗きこんでいた。 「実はね、今日はキョンと2人で遊ぶ約束をしていたのよ。何をするのかは、まだ聞いてないのだけれど」 思わぬところからフォローが入った。佐々木だ。でもあれ? 『何をするか』は言ったよな? 「受験の合間にも息抜きが必要だと、誘われるままにここへ来てしまったの。キョン、そこで提案なんだけど」 ニコリと微笑み、佐々木が言った。 「どうせだから、その勝負とやらを受けようじゃないか」 「え?」 意外すぎる申し出に、俺はビックリして硬直する。 「せっかくの申し出だしね。これまでなんだかんだとキミの妹と顔を合わせることはあっても、一緒に遊んだことはなかった。それにミヨキチちゃんまでいるしね。きっと皆で遊んでも楽しくなると思う。それに」 弦月型に唇を曲げて、 「“勝負”という響きには抗いがたい魅力を感じるんだよ、キョン」 佐々木はそんなことを言った。細めた瞳からは真意を読み取ることが出来ない。 「……まぁ、お前がいいって言うんなら……」 「お、キョンくんノリ気になったね!? じゃあさっそく部屋にイドウだよ!!」 俺が断言する前に妹はミヨキチの手を取って走り出した。 「あ」とか「わ」などの単音節を残しつつ、ポニーテールの美少女が階上へと駆けてゆく。うむ、何かこう微笑ましいというか是非うちの妹になって欲しい―― 「キョンっ」 耳元の声に驚き仰け反ると、満面の笑みなのに目が笑っていないという不可思議な表情で佐々木が俺を見ていた。 「上がらないのかい? もう彼女達はやる気満々のようだよ」 「あ、ああ。もちろん上がるさ」 おっかなびっくりで俺は靴を脱ぎ、廊下に上る。 佐々木も後に続き、振り向きしゃがんで靴をたたきに揃えていた。何となく座りが悪いので俺も同じようにしゃがんで靴を並べる。隣で佐々木が笑みを浮かべたようだったが、俺は気付かない振りをした。 ……さて。 何を思いつきやがったんだ? あいつは。 俺たちが部屋に入った途端、 「では第一回、キョンくん杯スマブラ大会を始めます!!」 妹がそんな宣言をした。 俺はその頭を掴み、 「なぁ、何をおっぱじめる気だ?」 と優しく語り掛けて左右に揺さぶる。 「うぁー、うぁー」 意味のない声を上げて笑顔で揺さぶられる妹。 「あのねあのね、キョンくん最近遊んでくれないからね? 色々考えたのあたし」 「下手な考え休むに似たりって言葉を知ってるか? 知らなかったら――」 「そんなに切って捨てることないじゃないかキョン」 軽く背中を叩かれる。 「それで? どんなルールで決着を付けるの?」 「スマブラはねぇ~~なんと! 4人対戦ができるんだよっ!? だからいっせーのでゲームして、勝った人が明日キョンくんとデートするの!」 「ちょ、ちょっとデートなんて……」 あっけらかんと言い放つ妹。そして慌ててその肩を引くミヨキチ。 「あっそうか。ゴメンね言い間違い! 『2人でお出かけ』なんだよキョンくん!」 「その言い直しに意味はあるのかオイ」 無粋を承知でツッコミを入れる俺。そして動揺著しいミヨキチに焦点を合わせる。 ……ビックリするほど赤面していた。 「モテモテだね? キョン」 「うるせ」 肩口から掛かる笑い含みの声に、俺は短く言い返す。 そりゃまぁ確かに? ミヨキチは大人の香り漂わせる美少女だし並んで出歩いたら注目の的となり妬視の矢が集まることだろう。だけど彼女は妹の同級生であり、まだ小学生なのだ。 「……まぁ、お出かけ、ね」 「可愛らしい思い付きじゃないか、キョン」 そう言ってまた満面の笑みを浮かべる佐々木。 「だけど私はそのゲームをやったことがないの。勝負の前に少しだけ、練習させてもらえないかな?」 「うん、いいよ!」 そのまま妹に話しかけ、幼い発案者が大きく首肯する。 「十回くらい練習したら勝負はじめよ? そだなー、本番は五回くらいで!」 なんともアバウトな大会規定だなオイ。 とかなんとか呆れつつも、購入者である俺がこのゲームを嫌いなはずもない訳で。やれやれと肩を竦めると佐々木の横に腰を下ろした。 「お兄さんは見学です」 「え? なんで?」 「持ち主だから、『練習なしでいきなり本番』というハンデです」 「え、……まぁ、いいけど」 「それでもし宜しければ、私のプレイを見て改善点などをアドバイスしてください」 「おお? ミヨちゃん積極的~!」 「それはそれでハンデのような気がするわミヨキチちゃん。キョン、僕にもアドバイスをくれよ? なにせ正真正銘の初心者なんだからね」 「解ってるよ。平等になるようにすればいいんだろ?」 「おお! 『ビョウドウにマンゾクさせれば3人いっしょに相手できる』ということですなキョンくん?」 「……お前は何を言ってるんだ」 そんなことを言いながら、練習が始まった。 意外だったのは佐々木のゲーム適性が高かったことだ。緒戦はむろん惨敗だったが表情一つ変えず、にこやかな笑顔のまま説明書を速読し、一戦ごとに飛躍的な上達を見せていた。いや、ほんと驚くほどに。 『勝った人が明日キョンくんとデートするの!』 妹の宣言がふと脳裏を過る。 もし、相手が佐々木になったら? それでもし今日の塾の帰りみたいに、知り合いの誰かにそれを見られたら? 土日連続で『2人で遊ぶ』俺たちをどう見て、どんな噂が立つことだろう。 気が付けばミヨキチもみるみる腕を上げている。俺のアドバイスを瞬時に咀嚼し、反映させる理解―実行力は相当なものだった。 それでも、佐々木の上達の方が速い。どんどん2人の実力は拮抗してゆく。 もしミヨキチが勝ったら? いや別に出かけるのは嫌ではない。男どもが発する羨望の眼差しも心地よく感じられるかもしれん。 でもなんだろう、友人の誰かにもし出会った時、それがひどく厄介な何かを誘発する危い予感がするのは? 紹介してくれ? 別に構わんさ。 馴れ馴れしく触ろうとしたら? そこは颯爽と庇ってやるだけの事。でもなぁ、なんか指摘されたくない何かを笑いながら言われそうな……。 あ、妹? 笑いながら負けてるようじゃ話にならんね。 そうしてアドバイスを飛ばしながらも色々考えを巡らせて、しかし結論は降りても湧き出しても来てくれないままに。 俺も参加しての、本番勝負が始まった。 3.一日デートは誰のもの?(1/10) まあ俺が勝ったわけだが。 そもそも持ち主であり最もプレイ時間の長い俺が勝つのは自然な流れであり展開であり、合理的でもある。 にも拘らず、対戦相手の女3人は姦しく俺に抗議を申し立ててきた。 ……なるほど、『姦しい』という文字の通り、女3人が集結したことによる自然発火みたいなものか。 「また変なことを考えて妄想に入り込もうとしているね?」 佐々木にしては的外れな指摘だな。俺はこの上なく現状を把握しているぞ。 「なるほど耳には届いているようだ。ならばより公平な手段による再勝負という提案には賛同してもらえるね?」 「そうだよ! なんかズルいよキョンくん!」 「私も……もう一度チャンスがほしいです」 何か趣旨が変わってないか? というツッコミは言うだけ無駄なのだろう。 そうは言ってもなぁ……。考える事しばし。 「……なあ、元々は勝負に勝った人物と俺が一日お出かけする、という条件なんだよな」 「そうです」 今日はアグレッシブだなミヨキチ。顔が近いぞ。 「だから、つまりだ……」 言いたくないなぁ。 「なになにキョンくん?」 お前はただ遊びたいだけだろ妹よ。 「……勝者である俺が、この中から誰かを誘えばいいんだろ?」 「「「!」」」 いそいそと佐々木が髪を撫で付け、妹が上目遣いにニヤリと笑い、ミヨキチが手を腿に挟んで親指を交差させ始める。 「キミが……そうしたいなら是非もない」 「それなら、うん。恨みっこなしだね!」 「はい。……あの、わたしもそれで構いません……」 まあそういう訳であるのなら、だ。 俺は微笑んで、その名前を告げた。 「なあ……キョン」 「なんだ佐々木?」 俺は手を引かれながら佐々木を見やる。 「キミの決断は尊重する。……うん。その気持ちに偽りはない。元々そういう条件の勝負だった訳だしね」 「おお、そうか?」 俺が口で勝てないのは佐々木だからな。お前が同意してくれるならそれだけで一安心だ。 「ただね」 佐々木は握った手を見下ろす。 「……あまりにも予想外だったよ」 佐々木も俺も妹に手を引かれている。 両手を使って俺たちを牽引する妹はまるで機関車だ。そして大井川鉄道的な蒸気音を擬声しながら先を行くこいつは、きっと古式ゆかしい黒光りする煙突を生やした牽引車の気分なのだろう。 その息が白く凝結して、空へと上り消えてゆく。 「おい、今からそんなに走ってどうする。水族館は逃げやしないぞ」 「へへー、ふふー。走りたい気分なんだよー!」 振り向いた妹の顔は満面の笑みだった。 まぁ、それ自体は悪い事ではないのだが。 「ミヨキチだっているんだ。もうちょっとペース落とせ」 「ミヨちゃんあたしより足はやいんだよ。平気だよ!」 「あれ、そうなの?」 俺は振り向いて、もう片方の手が握る先を見た。 「は、はいぃ?」 ミヨキチは顔を真っ赤にして足をもつれさせ、いかにも精一杯といった風情である。 「だ、大丈夫かミヨキチ!?」 俺は慌ててスピードを落とした。自然、残り3人の足も止まる。 「は、はい……ご心配なく……」 「ほんとに――」 「ええもう、ホントに何ともないですからっ」 俺が手を解いて額に触れようとすると、ミヨキチは早口で返事をして俺の手を遮った。 どうやら元気ではあるらしい。……となれば……。 「……妹よ、嘘をつくなんてお兄ちゃん悲しいぞ」 「えー、ウソじゃないよぉ~~。……あ」 何を思いついたのかエヘヘと妹は笑い出し、 「じゃあさ、ミヨちゃんは佐々にゃんと二人でゆっくり歩いてくればいんだよ! んで、キョンくんはぁ、あたしと駅まで二ニン三キャクっ!」 とびっきりのイタズラ笑顔で振り向いた。 やれやれ、何を言い出すかと思えば―― 「ダメです!」 「それは話が違う!」 吃驚した。俺以外の二人が猛然と反論したのだ。 「えー、でもー。ミヨちゃんは走りにくそうだし佐々にゃんはゆっくり歩きたそうだし。 これが公平だと思うなー。そう、コウセイムシな大岡さばきだよ!」 あのなー……。 「「嘘だっ!」」 またもや俺の反論は先んじら―― 「公正無私というのなら僕こそが次はキョンと手を繋ぐべきだ! 僕だけが彼と手を繋げていない今の状況は決して公平とはいえないっ。むしろ悪意ある思惑を感じるくらいだっ! キョン、キミもそう思うだろうっ?」 え? 俺? 「いいえ、お兄さんはペースを落とせと仰いました『わたしのために』! ですからわたしと2人で手を繋いでゆっくり歩くというのがお兄さんの意思、本音なんです!」 どうしたんだミヨキチ、いつもはもっとおしとや……。 「よく言ったものねミヨキチちゃん。お顔が真っ赤よ? 大方興奮しすぎて熱でも出したんじゃないかしら。お家に帰って安静にするべきね」 佐々木、それは心配しての―― 「大きなお世話です! 佐々木さんこそブツブツ文句ばっかり言って! 嫌ならどうぞお帰りください!」 おいミヨ……。 「私は帰らないわ。体調も万全だしね。 でも“子供”はちょっとした事で発熱したりするものよ。家へ帰って静養する事を勧めるわ」 「わたしだって平気のへっちゃらです! 佐々木さんこそ帰っていいですよ!」 「あなたこそ……!」 「そっちこそ……!」 「あー、そこまでだ2人とも」 俺は繋いでいた両手を放して、 「あっ……?」 「えっ……」 「キョン……?」 言い争っていた2人の手を取った。 「『佐々木、ミヨキチと妹も含めて4人みんなで』ってのが俺の指定だった。お前らの条件である『手を繋いで』ってのにも従った」 まぁ『遊びに行く』という条件だけを守り、『2人で』という項目を無視した訳だが。 「でも喧嘩ばかりして仲良く出来ないってんなら、ここで終わりにするぞ」 「「それは……」」 2人は顔を見合わせて、うつむいた。 もう一押しかな。 「出来るのか、出来ないのか?」 俺が問い詰めると、 「し、しょうがない……」 「し、仕方ないです……」 しぶしぶといった感じで頷いた。 そんな2人に握手をさせて、 「じゃ、しばらくは2人で手繋ぎだな」 「うう……」 「むぅ……」 ミヨキチが呻き、佐々木が息をついて、二人は手を繋いだ。 さて、俺は誰と手を繋ぐか……。 と見回せば、妹がニコニコして俺を見上げている。 「お前はミヨキチとだ」 「えー」 「えーじゃありません。ほら」 押しやって、手を繋がせる。まぁあの顔を見た脊髄反射的な判断だったが……。 あれ? さて、こうなると……。 「佐々木、手、いいか?」 まぁ、こうなっちまうよな。 「え、あ、うん」 チョコレートと間違えて碁石を口に入れたような顔をして、佐々木が小さく頷く。 まぁ……なんだ。こういうのは躊躇すると余計恥ずかしくなるからな。 「そ、そうだね」 俺は佐々木の手を握った。 さて、人は歩く時その方角へと視線を向けるのが当然であり、そして俺はわざわざそれに背くほど天邪鬼な人間ではない。だから俺は自然と前方に目を向けて、しかるべくしてその景色以外の情景は目に入らなかった。妙に無口になった3人娘がどんな顔をしていたのかは、つまり俺の知るところではないわけで、まぁ知りたくないと言えば嘘にならなくもないが、しかし『見る』ということはすなわち『見られる』ということであり、つまり俺はそんな事態を避けたかったらしい。 そして避けたいといえばもう一つ。 「ちょ、ちょっと急ごうか」 「う、うん」 「……はい」 「あ、走る? 走るの?」 俺たちは小走りに駅へと向かった。 知り合いに見られるのだけは、なんとしても避けないとな。 そんな一日が終わり、夕暮れの帰り道にて。 佐々木が喉を鳴らすように笑った。 「中々、うん。定番の……コースというのも悪くないものだね。 むしろ定番足り得るのは、それだけの根拠があるということをしみじみと実感したよ。キョン、キミはどうだい?」 「ああ、楽しかったよ」 お前がはしゃぐ声なんてのも聞けたしな。 「そ、それは言わないでくれたまえよ。僕も少々忘我が過ぎたと反省してるんだ」 なんでだ。可愛かったぞ。 「な、な」 小っちゃい子みたいで。 「……キョン、キミは少し女性の遇し方というものを知るべきだと思う」 冗談だ。そんなに怒るなよ。 「……キョンくん」 なんだ起きてたのか? じゃあそろそろ降りてくれ。お前を背負いながら二人と手を繋ぐってのも結構大変なんだ。 「……えへへ、キョンく~ん……」 なんだ、寝言か? ったく。これじゃもうしばらくこの過重労働を続けるしかないじゃないか。 「ふふっ」 お、どうしたミヨキチ。 「いえ。お兄さん、やっぱり優しいなぁって思って」 そうか? だけど君や佐々木に背負わせるわけにもいかんだろ。 「そうじゃないです。ふふっ」 なんだ? 思わせぶりだな。 「いえ。……その、お兄さんさえ良ければ、またこうしてお出かけしたいです」 「そうだね。こうしてみんなで遊びに行くのも悪くはない。いい息抜きになるよ」 そうだな。佐々木の言う通りだ。 また時間の都合がつけば、この4人で出掛けるか。 「そうですね」 「楽しみだよ」 出掛けの険悪さはどこへやら。すっかり打ち解けた雰囲気で二人が笑っている。 「キョンくん……ニブちん……」 だというのにこの妹ときたら。 「すっかり甘えてますね」 くすくす笑うミヨキチ。 「頼りきった寝顔だよ、キョン。お兄ちゃん冥利に尽きるじゃないか」 そんな風に呼んでくれないけどな。ここ3、4年。 「恥ずかしがってるんですよ」 「捻た事をしたがる年頃なのさ」 ホントかね? 今度妹に聞いてみるとしよう。 「優しく聞いてあげてくださいよ?」 「一人の女性として、尊重してね?」 はいはい解りましたよ。って、もうこんな時間か。 どうせだ。うちで夕飯も食ってくだろ? 「お兄さんさえ宜しければ」 「ああ。キミが構わないなら」 ついでだ。『優しく』『尊重した』事情の聞き方とやらも教えてくれ。食事をしながらゆっくりとな。 「「ふふっ」」 「いいですよ。お兄さん」 そう言ってミヨキチが笑った。夕日の照り返しで輝く雲のような、綺麗な笑顔で。 「では骨を折るとしようか」 夕日を隠した雲のように、輪郭が強い光芒を放って、佐々木が笑みを浮かべている。 「ああ」 俺は答えて、帰り着いた我が家の扉を開けた。 「ではディナーへようこそ! お嬢さま方」 慇懃なお辞儀を交えてね。 オマケ)自転車を止めて小銭を払い、中学時代の四方山話(『分裂』のp.69) 喉の奥を響かせるような音。 「なんだよ急に笑ったりして」 「思い出し笑いさ。キョン、妹さんは元気かい?」 「ああ、ウンザリするくらいにな。時々耳栓がほしくなる」 「甘えたい盛りなのさ。どんと構えて、受け入れて上げなよ。それが兄たる者の矜持ってものじゃないのかい?」 「言うは易く、行うは難しさ。実際まともに付き合ってたら次の日寝込んじまうに決まってる。 精根尽き果てたミイラになっちまうわ」 「それは大げさというものだろう? キョン。 以前一緒に水族館へ行ったときは、帰り道に彼女を背負って帰るくらい余力があったじゃないか」 「あん時よりはでかくなってるよチンチクリンなりにな。今なら引っ叩いてでも起こして、自分で歩かせるね。 帰り道ずっと背負い続けるなんてとてもとても……なんだよ佐々木」 「くっくっく、出来もしない冗談では誰も騙せやしないよ?」 「そうか?」 「そうさ。キミの順法精神は先刻、自転車置き場で充分に拝見させてもらったからね」 「やれやれ。とっとと声を掛けてくれればいいものを」 「少し見とれてしまってね」 「……は?」 「キミがあまりに変わっていないから」 「……少しは身長が伸びたんだがな」 「そうかい? でもそれは僕も同じだから、きっと身長差は変わっていないんじゃないかな。 ……くっく、あの時は手を繋いでいたから、歩幅を合わせるのも大変だったけどね」 「ん? ……ああ、まぁ手繋ぎってのはなぁ」 「キミも僕も妹さんも、それに……吉村さんだっけ? みんな見事にコンパスがバラバラだったからね」 「そうだな。あー、ミヨキチといえば、あの子ますます背が伸びてな。今や高校生でも通じそうなくらいだ。 きっと見たら佐々木もビックリするぞ」 「そうかな」 「そうさ。もう雑誌に掲載されても違和感ないくらいの美少女に成長してるからな。 きっと同じクラスの男子連中は全員ヤキモキさせられてるに違いないぜ」 「……今でも、会ったりするのかい?」 「ん? ああ、まぁたまにな。遊びに来て、帰りに送ってやったり」 「夕飯を食べたりも?」 「する時もあるが……。それがどうかしたのか?」 「いや、なんだか懐かしくてね。水族館の後お邪魔したとき、賑やかに食べる夕食は格別の味だったから」 「なんか誤解がある気もするが、いつもがいつもあんなんじゃねーぞ? あん時はゲストが2人も居たからお袋が張り切っちまっただけだ」 「そうかい?」 「そうさ」 「なら今晩にでも僕がお邪魔すれば、またあの格別な晩餐を味わえるというわけだね?」 「……まぁ、そうなる、かな?」 「くっくっく、冗談だよキョン。いくらなんでも再会したその日の夜に押しかけるほど僕は厚かましくない」 「ならいいんだが」 「それよりショックだね」 「なにが?」 「キミが一瞬にしろ、僕が『再会してすぐ家まで押しかける厚かましい人間』だと疑わなかったことさ。そんな風に思われていたとは、ね」 「やー、すまんな。最近その手の厚かましい人間ばかり相手にしてるから、疑問の余地なく信じちまった。 佐々木は良識と常識を兼ね備えた人間だというのにな」 そう言葉を伝えると。 喉を鳴らす、独特の音がする。 「……でも、そうだな」 「ん?」 「厚かましくなるつもりはないけれど、それでも、あんなに楽しい時間を期待するのに否やはない。 もしキミが構わなければ……そんな機会を、もう一度設けてはもらえないかな」 「晩飯を食いに来たいってことか? 別に構わんが。 ……そうだな、妹やミヨキチの予定も訊いて、時間が合いそうな時にまた集まるか。きっとミヨキチも喜びそうだ」 「……そうだね」 「なら早速。佐々木の電話番号、教えてもらってもいいか?」 「え? あ、……うん」 チョコレートと間違えて碁石を口に入れたような、素っ頓狂な声がした。 オシマイ) ※作者注『驚愕』発売前にプロットを考えたため、キョン妹が佐々木を呼ぶとき『佐々木お姉さん』 ではありません。パロディという事で大目に見てやってください。 というか『お姉さん』って、ちょっと他人行儀すぎますよね? 作者さん:ken ◆AEiPDPXrnI pixiv掲載作品 ttp //www.pixiv.net/novel/show.php?id=272953